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松坂vsイチロー緊張と感動の初球

レッドソックス対マリナーズ 1回表マリナーズ無死、1番イチローに対し変化球を投げ込む松坂。大観衆からは一斉にカメラのフラッシュがたかれた(撮影・宇治久裕)
レッドソックス対マリナーズ 1回表マリナーズ無死、1番イチローに対し変化球を投げ込む松坂。大観衆からは一斉にカメラのフラッシュがたかれた(撮影・宇治久裕)

<レッドソックス0-3マリナーズ>◇11日(日本時間12日)◇フェンウェイパーク

 【ボストン(米マサチューセッツ州)11日(日本時間12日)=四竈衛、山内崇章】日米両国で注目のレッドソックス松坂大輔投手(26)とマリナーズ・イチロー外野手(33)の対決が、早くも実現した。ともに「特別な存在」と認め合う両雄にとって7年ぶりの対決。松坂が「いつもと違う思いがあった」と言い、イチローが「ジーンときた」と思いを込めた勝負は、イチローを4打数無安打に抑えた松坂に軍配が上がった。マウンドと打席で独特の緊迫感を漂わせた「平成の名勝負」メジャー版に、地元ファンも酔った。

 震えるような感動を互いに覚えていた。マウンドと打席の18・44メートルの空間で向き合う2人に、フェンウエイパーク3万6630人のファンは総立ちで歓声と無数のフラッシュを一斉に浴びせた。バットを掲げるイチローを感慨深く見詰める松坂。目を細めてマウンドへ鋭い視線を送るイチロー。興奮のピーク状態にあるスタジアムの異様な雰囲気が、お互いの精神状態を高揚させた。

 極度の緊迫感が、松坂の呼吸を微妙に狂わせた。独特のイチローの構えが決まる前に、投球モーションに入った。サインを確認した瞬間、イチローの動きを見失った。こん身の1球だけに集中していた。

 松坂「歓声の大きさの質の違いは、今まで経験したことのないものでした。初球は投げづらかったです。やはりイチローさんが日本からいなくなり、ずっと待ち焦がれていた瞬間だった。そういう意味で、あの瞬間というのはいつもと違う思いがありました」。

 メジャー最古の球場のマウンドに立つ松坂を前にしたイチローも、万感の思いでその姿を目に刻んだ。99年の初対戦以来、松坂の全身からあふれ出る才能を体感してきた。野手と投手の違いこそあれ、メジャーの舞台を「目標」として心技を磨いてきた道程は同じだった。そんな松坂の思いが痛いほど分かる。だからからこそ、いつもはクールなイチローの心も極まった。

 イチロー「ジーンときました。こういう状況は今までなかったですから。(気持ちは)真っさらでした。僕は大体、打席で雑念が入ってるんですが、それがまったくなかったです。こういうことは(意図的に)セッティングできないという意味で、僕自身はその場にいた自分のことが好きです」。

 日米ファンが注目した1球目。松坂は内角のカーブを選択した。当初、口にしていたボールになる速球ではなかった。投げた直後には複雑な思いにもかられていた。

 松坂「真っすぐのボールで入ろうと思ったが、ファーストストライクは重要なので、(捕手の)バリテックと話してカーブで入りました。見逃し方、その後のイチローさんの雰囲気を見て少し怒っているかなと感じました」。

 イチローにすれば怒る理由はなかった。ただ、それまでの特殊な感慨を、現実のシビアな「勝負」に引き戻したのも、その1球目だった。

 イチロー「1球目のカーブを見た時ですね。ちょっと冷めましたね」。

 速球ではなく、カーブを選択した松坂の複雑な思いも、勝つことを最優先する必死な立場も理解した。イチローとしても、結果に目を向けた」。

 松坂にとっては、どうしても勝ちたい相手だった。普段以上の力が入って当然だった。直球がシュート回転し、変化球も逆球が目立った。決して本調子ではなかった。だが4打席、イチローだけは気迫で抑え込んだ。1点ビハインドの5回1死一塁での第3打席。内外角へのカットボール2球で追い込むと、最後はフォークで空振り三振を奪った。

 松坂「最後は落ちるボールなら面白いと思ったらバリテックもフォークを選んだ。今日は真っすぐで抑えられるだけのものがなかった。イチローさんに関しては何が何でも抑えたい。どんな形でも三振を取りたいと思う人なので、直球へのこだわりはありません」。

 松坂の必死さは、打席のイチローにも伝わった。日本で初対戦の際、「生意気なぐらい」と感じた松坂の体温とにおいは7年前と変わっていなかった。

 イチロー「お互いに意識しているということ。そういう相手はアイツもなかなかいないだろうし、ボクもそう。だって形に出てるわけですから」。

 周囲には分からずともマウンド上でのしぐさ、表情で、松坂の心の動きをイチローはつぶさに感じ取っていた。イチローを抑えて気を緩めたつもりはない。だが5回、イチロー三振の直後に2番ベルトレ、3番ビドロに連続タイムリーを許して2失点した。いずれも甘い高さ、コースの初球ストレートだった。

 松坂「初球ストライクを取ることは重要ですが、気を付けないといけないところ。次回への反省です」。

 イチローに勝って試合に敗れた。悔いは残った。尊敬できる野球人、あこがれの対戦相手-。松坂がイチローの存在を以前からこう語る理由は明確だ。

 松坂「イチローさんは何を待っているか、どういう狙いがあるのか打席の動きから全く見えないんですよ」。

 「臍下丹田(せいかたんでん)」。へそ下には心身の精気の集まるところあるという。武道の教えの1つで、松坂は5歳から始めた剣道で学んだ精神統一を常にしている。

 松坂「これをやれば集中力が増して球場の声援、ヤジ、相手の動きまで全部見えるんです。普通は打者の狙いが見えて、それに応じた投げ方ができますが、イチローさんだけはどうしても見えてこないんです」。

 99、00年の2年間に34度対戦した松坂の打者イチローへの感想は、不可解なままに終わっていた。それだけに答えを出すべく、この日を待ち続けてきた。

 ペドロ・マルチネス(現メッツ)、ティム・ハドソン(現ブレーブス)らかつての宿敵が不在となったイチローにとっても、自らの内面に眠る闘争心を呼び覚ます松坂との対戦は、最高の喜びだった。だが、結果は屈辱のノーヒット。力を出し切れず、消化不良に終わった感覚だけが残った。

 イチロー「彼はいつだって僕を奮い立たせてくれると思いますが、僕がこのザマじゃアイツを奮い立たせることはできません。今日はいろんな意味でビッグゲーム。こういうときに、なかなか自分を表現できないのは、ストレスですね」。

 最高の自分を表現できなかった松坂の心にもポツンと穴があいていた。試合後の会見は、歯切れの言葉が続いた。

 松坂「手応えはないですねえ。最初のピッチャーゴロ、センターフライにしても、(イチローに)打ち損じて助けてもらった感じが強いです。僕としては楽しみにしていた時間だったので、もっといいボールを投げられれば良かった」。

 7年越しの再戦は海を渡った歴史の街・ボストンで実現した。そしてこらえ切れない感動を覚え、互いに悔いも残した。それでも2人の間で繰り広げられる熱戦は、まだまだ始まったばかりだ。ベースボール米国の地で1歩目を歩みだした松坂。その進化の過程を打席で再び受け止めたイチロー。メジャーの舞台で「怪物」「天才」の新たな歴史が幕を開けた。

[2007年4月13日10時8分 紙面から]


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