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松坂初登板も「普段通りに投げられた」

 【カンザスシティー(米ミズーリ州)5日(日本時間6日)=四竈衛、山内崇章】夢舞台でも、怪物は「平常心」だった。レッドソックス松坂大輔投手(26)はデビュー戦にもかかわらず、特別な緊張もなく「普段通りに投げられた」と大物ぶりを発揮。最速95マイル(約153キロ)をマーク。日本人メジャー投手では先発初登板で勝利は02年ドジャース石井一(現ヤクルト)以来、4人目。メジャーでは02年アスレチックスのハラング(現レッズ)以来となる初登板2ケタ三振の快投を演じた。

 思い焦がれた待望の舞台、ようやくたどり着いた念願の場所なのに、松坂は自分でも驚くほどに冷静だった。メジャー初登板、1億ドル入団。過剰なまでに周囲から注がれる期待も、重圧にはならなかった。マウンドに立てば、一投手として勝つことだけに集中した。悲鳴にも似たレ軍ファンの声援、捕手バリテックがマウンドに駆け寄るたびにロ軍ファンからわき起こるブーイングにも、表情ひとつ変えずに打者と対峙(たいじ)した。

 松坂 今日は自分にとっても待ちに待った舞台でしたが、自分でもびっくりするぐらい普通に試合に入れました。特別な意識があったのは、(横浜高校時代)甲子園で初登板した時のほうが感情がありました。

 試合開始午後1時10分のカウフマンスタジアムは気温2・2度。肩、ひじ、腰に温熱効果のある塗り薬を擦り込む対策を講じたが、乾いた指先は思い通りに制御できなかった。初回、先頭のデヘススへの初球は宣言通り、150キロのストレートだった。ファウルされ、そして3球目。いきなり抜けたスライダーを中前にはじき返された。立ち上がりは変化球の制球ミス、直球がシュート回転する場面が目立った。

 それでも、技術的な過不足を補える心の軸は、7回を投げ終えるまでいっときたりとも揺るがない。地に足が着いていたからこそ、大崩れすることもなかった。

 1点リードで迎えた4回の投球は圧巻だった。直前に味方打線が無死二塁の好機を生かせず追加点を得られなかった。好機が危機に変わり得る展開のセオリーを見極め、力で3者三振にねじ伏せた。2番ヘルマンを外角低め150キロで見逃し三振。3番ティーエンは徹底した内角攻めで空振り三振。4番E・ブラウンには3球勝負で150キロの内角高めを振らせた。

 2点リードの6回にソロを浴びてからも冷静だった。さらに2死二塁のピンチを迎えるも、5番ゴードンに対しフォーク、フォークで簡単に追い込んだ。勝負球はこの日最速の153キロ。外角低めいっぱいに決めて、見逃し三振に仕留めた。

 デビュー戦マウンドの3時間前、ロッカールームの松坂はテレビに夢中になっていた。スポーツ専門チャンネルESPNが、松坂のジャイロボールを特集。魔球の秘密を追求する内容だったが、ソファの向かいにいた前田トレーナーに本物のジャイロとは何かを、身ぶり手ぶりで説明。自分の投球を解析する場面では笑みを浮かべるリラックスした時間を過ごした。

 あのときもそうだった。99年4月7日。プロデビュー戦を数時間後に控えた松坂は、当時西武トレーニングコーチだった岡本光氏の運転で東京ドームに向かった。高速道路の料金所。料金を払った助手席の松坂に、初老の係員がしばらく声を掛けていると、おどけた声で応酬した。「ハイ、頑張ってきます。期待してください。お釣りください」。当時18歳。あの日のデビュー戦も8回2失点で勝利を飾った。一大決戦を目前に控えても普段通りの自分でいられるメンタルの強さは当時から備わっていた。

 「今まで試合で緊張した経験がないんですよ」。メジャー初登板の5日前、松坂はその理由をこう語った。「5歳のときに剣道を習っていて、へその下に力を入れると集中力が増すことを教わった。野球を始めてからも試合前にそれをやれば地に足が着く。相手もよく見えてくる」。強靱(きょうじん)な精神力は長く松坂のパフォーマンスを支えてきた。

 もっとも、目標の舞台で挙げた1勝は素直に喜べた。守護神パペルボンが最後の打者を三振で締めると、ベンチで右手を胸に当てて初めて肩で息をついた。

 松坂 今まで周りの僕に対する期待は、少し過剰に思える部分もあったのですが、自分にとって、応援してくれるファンにとっても、一番最初に幸先良く勝てたのは良かったと思う。

 まず1つ勝った。安堵(あんど)したことも事実だろう。それでも、まだまだ先がある。横浜高3年時の甲子園春夏連覇、日本108勝、そしてこの日は日米の野球ファンを興奮させた。怪物伝説の第2幕がアメリカで開けた。勝てば勝つだけ松坂の目の前に戦いのレールは敷かれていく。【山内崇章】

[2007年4月7日14時42分 紙面から]


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